青春18きっぷ、お次の目的地は千葉県銚子。
4月1日。前週と違い、朝から天気も良好。早めに家を出て、電車に乗り込む。
まずは上野へ行き、06:41発の常磐線快速に乗車。朝陽で軽やかに霞んだ風景の中、ビルや住宅の間から、どこも満開の桜が見え隠れする。
07:13、我孫子に到着。ここで成田線(我孫子線)に乗換えだ。我孫子発は07:27。ここまではロングシート車両だが、朝早めという事もあって、乗客は混んでも座席が8割埋まる程度。先週の東海道本線とは較べものにならないくらい、ゆったりとのどかに車内で過ごす。向かいの窓に広がる景色も見渡せるので、なおさら気分が良い。
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車両は 千葉ディステネーションキャンペーンの 特別ラッピング |
成田到着は、08:10。ここでまた、08:18発の銚子行成田線(本線・佐松線(さまつせん))に乗換えだ。車両はセミクロスの111系。ようやく首都通勤圏を抜け、郊外へ旅に出た気分になる。
進行方向を確認しつつ、クロスシートの窓側へ腰を降ろす。成田駅周辺部を過ぎると、次第に畑が多くなり、展開するのは平地から湧き出したような小丘が点在する、いかにも房総らしい眺めだ。滑川駅から先は、利根川の南岸に沿うように単線の線路上をトコトコと進む。千葉は暖かい、という印象があるのだが、このあたりは南の半島部分とはやはり違って、都心より桜のほころび具合が遅れているようだ。赤土の畑では収穫前のキャベツの列が、地味豊かな緑を湛えて並び広がっている。
ひとつ手前の松岸駅で総武本線に合流し、09:49、銚子駅に到着。乗客の殆どは、降車したホームの突端でちんまり客待ちをしている銚子鉄道の1両編成車両へ慌てて移動する。
 | 日曜日の午前10時 駅前商店街は閑散としていた |
銚子電鉄も利用する予定だが、その前に行くべき場所があるため、改札を通って駅前広場へ。徒歩で公正図書館へ向かう。
2階の郷土資料室で少々調べ物をした後、周辺を撮影。
そこから銚子電鉄の仲之町駅へ向かったのだが、みどり中央公園の脇を抜けると、行けども行けども醤油工場の敷地が続き、左折するべき角が判らないまま銚子電鉄の踏切へ行き着いてしまった。線路沿いの道が、駅まで続いているかも確認できない。仕方なく引き返すうちに、乗るべき電車がやってきて、行ってしまった。地図と現況を引き較べつつきょろきょろしていると、工場施設の隙間のような道路の奥に、小さく「仲之町駅」の表示が……
知らない人間には、どうしたって工場の一部にしか見えない。
次の目的地へは、30分ほど電車待ちをして笠上黒生(かさがみくろはえ)駅か西海鹿島(にしあしかじま)駅で下車後、15分ほどの歩き。先週の腰痛がまだだいぶ尾を引いているし、時間短縮の意味もあってタクシーを使う事にする。
「黒生(くろはえ)の、『一山いけす』さんまでお願いします」
掴まえたタクシーの運転士さんに告げて、県道244号線を東へ。「一山(いちやま)いけす」は、海鮮を素材にした料理で有名な店だ。
「今日あたりは、食べに来る人が大勢いて物凄く混んでるよ。お客さん、予約とかしてあるの?」
ハンドルを握りながら、運転士さんが柔らかな口調で問いかけてきた。
「いえ、実を言うと、目当てはお店ではなく、『お店の前にある石碑』なんです」
ちょうど昼にかかる時分だし、場合によってはそこで昼食を摂る事も視野に入れていたが、混んでいるなら無理に実行する必要も無い。運転士さんは、楽しそうに言葉を繋いだ。
「歴史とかの勉強でこの辺りを回る人も、結構多いよ。こないだ乗せたお客さんもそういう人で、地元の人間が知らない事まで詳しいの。こっちが教えられちゃうのよ」
タクシーは道なりに進んで、県道254号線へぶつかった。その先を右へ取れば、「一山いけす」の入口へ着く。
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| 潮風と雨にさらされて浸食が激しい |
慶応4年8月20日、品川沖から北へ向けて出航した榎本武揚率いる旧幕府海軍2000人と艦船8隻。船出した翌日の悪天候で、艦隊内の輸送船・美嘉保丸が進路を見失って漂流。8月26日に、当地の岩礁に乗り上げて沈没した。
その際に死亡した13名の慰霊碑が、店正面の広い駐車場の一隅で、海を背にして立っている。
写真を撮りまくって一般道路との分岐まで歩くと、そこにある「とんび岩」バス停へ、本当にタイミングよく銚子駅-黒生-海鹿島循環の千葉交通バスがやって来た。これ幸いと飛び乗って、笠上黒生駅まで移動する。バス停から駅への道を近所の人に尋ね、住宅の間を縫うようにして駅へ。


コンクリートの台形突起、といった風情のこじんまりしたホームに、築60年くらいの木造駅舎が、ぽつん、と、寄り添っていた。出札口も改札も懐かしさが溢れる風情で、この小さな鉄道路線には似つかわしいと思う。単線の上下線入替駅なので、線路を2本挟んでホームはふたつ。上下線の運転席が近付く形でずらして停車した車両の間へ、駅長さんがとことこ出て行ってタブレット交換をする。
12:49、笠上黒生発。民家とキャベツ畑の間を、1両編成の電車は横揺れしながら進む。陽気の良い日曜日という事もあり、乗車率は6割程度だ。
犬吠駅着、12:57。笠上黒生駅からは想像もつかない、南欧風の駅舎に驚く。改札を抜けたら、観光客と土産物等の販売員と観光協会の職員で、屋内はごった返している。


鉄道事業再建資金を調達するための地元名物「ぬれ煎餅」販売は、TV等でも話題になった。他にも鉄道関連グッズや地酒、テーマソングCDなど、経営建て直しのためにさまざまな商品を展開中だ。
窮状が広く知られた途端、全国から支援の煎餅購入申し込みが殺到し、現在は受付を休止して発送に追われているという。経営も少しずつ上向いているそうで、めでたい事だ。直接、煎餅購入に訪れる人も増え、報道直後は付近の道路に渋滞まで発生したという。……って、電車に乗ってあげようよ。(笑)
地場の名産という事で、サンマの佃煮とイワシの佃煮を購入。袋に貼られたラベルや包装紙代わりの紙封筒は、インクジェットプリンターでカラー印刷したもの。素人っぽい手作り感が、懸命さを漂わせる。
「これから観光ですか?」
周辺地図のコピーを1枚貰ったら、観光協会の関係者らしいおとうさんが声を掛けてきた。
「犬吠埼灯台は、この道なりにほぼ直進です。それから、駅を挟んで反対側の……」
喋りながら、駅の壁に穿たれたアーチ型の窓へ招き寄せる。
「あの丘の上には、『地球の丸く見える丘展望館』があります。最初真っ直ぐ登ると道は右へ逸れていきますが、こちらは遠回り。信号渡ってふたつ先の角を左へ曲がって、お寺の手前をなめるように進む方が近いです。ほら、白いガードレールが見えますでしょう? あそこを通るんです」
「なるほど。キャベツ畑のほうへ行かずに、お寺の脇を左ですね」
「いや、左へ行っても、結局はキャベツ畑ばっかりになるんですけど」
どちらからともなく顔を見合わせて笑う。
礼を述べて、灯台方面へ歩き出す。灯台へ続く道を途中で逸れ、君ヶ浜公園に面したコーヒーハウスで昼食。看板メニューのピッツァと、ホットコーヒーを注文。13時を回っているが、あまり大きくない店内はほぼ満席状態だ。店の人も忙しくて、混乱しているのだろう。しばらく後、お待たせしました、と、なぜかおばちゃんがカレーライスを運んでくる。さらに待って、ようやく注文どおりのピッツァとご対面。料理はまあまあ並の味だが、窓から見える海の眺めが絶品である。難点は、海を見ていると窓際に座っている他の客から「何見てるのよ!」といわんばかりの視線で睨まれる事だ。何って、海を見ているんですがね、ええ。
食後のコーヒーは、薄くて残念。水分補給のためにも飲み干したかったが、隣席のご婦人が噴かす煙草の煙が全部こちらへ流れてきて、具合が悪くなりそうになり途中で席を立つ。
そこから歩いて、犬吠埼灯台へ。駐車場のナンバープレートを散見すると、遠方からの来訪者も多いようだ。灯台の上部、ランプハウス周縁で景色を楽しむ人達の姿が、本当に小さい。

灯台の脇から、君ヶ浜へ。
磯浜と砂浜が絶妙に組み合わされたここは、「君ヶ浜しおさい公園」として整備されている。
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| 君ヶ浜から望んだ犬吠埼灯台 |
波打ち際に沿ってゆっくりめに約1km北上。湾曲した浜のちょうど中程で西へ方向を換え、県道254号線を横断して真っ直ぐ進むと、銚子電鉄君ヶ浜駅に行き当たる。
ここがまた、ぱっと見たところ、とても駅とは思えない。以前はイタリア風の白亜のゲートがあったそうだが、今年2月に老朽化を理由として撤去されてしまった。右手に自動販売機、左手に簡易トイレを控えた階段の上に、ブロック剥き出しの無残な柱だけが4本、取り残されている。

ベンチはあるが上屋はなく、待合室もない。薄日の射すうららかな春の日に訪れているからいいようなものの、台風のときなど、どうすればいいのだろう、と、余計な事を考えてしまう。

やがて、外川方向から銚子行の1両編成が登場。14:54、君ヶ浜駅発。
車内には、みっちり乗客が詰まっていた。経営難の銚子電鉄としては有難い事であろうが、犬吠崎まで来て山手線気分を味わうのは、些か間尺に合わない気もする。検札の車掌さんも大変そうだ。
銚子駅に、15:09到着。
暖かく晴れた平日に、もう1度ゆっくりと乗ってみたい路線であった。

10分の待ち合わせで、同じホームの延長上から成田線回りの千葉行が出る。乗ろうかとも思ったが、別路線を使うのも面白そうだと考え直し、15:47発の総武本線回り千葉行を使う事に決めた。待っていた位置が、たまたま先頭車両の最後尾ドア。トイレ前にふたつだけの、前向きの座席を確保する。
隣駅の松岸駅で成田線と別れた単線の線路は、左へとカーブを描いて丘陵へ突っ込む。雑木林と笹薮が、車両へ覆いかぶさるように繁っていた。僅かな空間には、田んぼが点在している。
成田線沿線は畑が主体だったのに。治水などの状況が、違うのだろうか。
倉橋駅を過ぎて少し進んだら、いきなり、スコン、と、風景が開けた。まっすぐな地平線の、上半分は総て空。はるか左手に伸びる九十九里浜から続く平地が、農地と住宅で埋め尽くされて眼下へ広がる中へ駆け降りる。やがて右手は丘陵地帯の辺縁部へと姿を変え、東金駅を越えた線路は大きく右へ回りこんで千葉の内陸を貫く。
17:30、千葉駅着。町も駅も乗降客も、すっかり都会の貌である。
銚子電気鉄道株式会社
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TEL:0479-22-0316
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